アラスカに暮らす

星の海に漂う 〜アラスカに暮らす(49)〜

2012年01月30日

アラスカに暮らす(49)

■時の流れに思い巡らせ

 その夜も森はいてついていた。寒波はいまだ緩む兆しを見せず、いつ終わるとも知れない寒さにさすがにへきえきしていた。

 まきを運ぶため、外に出ると、冷気に驚いた喉がせき込んだ。まきをそりに載せ、オーロラ観測小屋に向かった。東の木立の隙間からオリオン座がちらちらと見え隠れする。

 そりを引く手を休め、ヘッドランプを消してみた。ふと見上げる夜空の深い黒に視覚が一瞬まひするが、間もなく暗闇に慣れ始めた瞳にクリスタルガラスの破片のような星々のきらめきが、ちかちかと降り注いできた。

 覆いかぶさるようなギザギザの針葉樹に囲まれ、森の中にただ1人。オーロラ観測小屋がある開けた場所に出た。それにしても、こよいはなんと星が多いのだろう。星の輝きを隠してしまうオーロラが出ていないことが幸いしてか、まさに降るような星空が広がっていた。

 けれど、夜空を埋め尽くすこの星々の間の距離はそれぞれどんなに遠いことか。理屈では測れないような感覚に圧倒され、星の海にこの身がのみ込まれてしまいそうな奇妙な錯覚に襲われた。

 自動車、弾丸特急、飛行機。それに無線や携帯電話。人は便利な道具を次々と作り出し、時間と空間の隔たりを縮めてきたはずだ。なのに、なお届かぬものへの憧れと寂しさが胸の内に湧き起こるのはなぜだろう。

 北西側の森の向こうから流れ出した天の川が南東の方角へと注ぐ。その流れの中を流星の光跡が走った。いつしか寒さを忘れ、この高緯度地方に流れる独特な時の流れに思いを巡らしていた。

 闇の王国に支配された極夜の冬と、光の王国に支配された白夜の夏−。ならば、冬と夏を結ぶ春は明け方の季節、夏と冬を結ぶ秋は夕暮れの季節とでもいえるだろうか。

 頭上に瞬く星々が持つ途方もない時の流れからすれば、アラスカの1年は、まるで四季を通じて昼夜がぐるりと一周する1日のようなものかもしれないと。気がつけば、北の空には緑白色のオーロラの帯が音もなく揺らぎ始めていた。

まばゆく輝く星の海に天の川がくっきりと浮かび上がった。やがて、オーロラが静かに現れた=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅でまばゆく輝く星の海に天の川がくっきりと浮かび上がった。やがて、オーロラが静かに現れた=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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