アラスカに暮らす

今年初のオーロラ 〜アラスカに暮らす(46)〜

2012年01月09日

アラスカに暮らす(46)

■天空のステージに歓声

 コンコンコン、コンコンコンコン。誰かがドアをたたくような音で目が覚めた。

 寝袋の中でもじもじしていると、ドアをたたく音ではないようにも聞こえる。外に出たくないなあと思っていたが、生理的欲求にも逆らえない。防寒着に身を包み、用を足しに外に出た。

 音の主は、母屋前の4つのまき小屋の中の1つで、積んであるまきをしきりにつつくキツツキであった。トウヒの中に巣くうカミキリムシの幼虫でも探しているのだろう。昨年末から居座っている強い寒波が地上のありとあらゆるものを凍らせてしまったかのような世界で、キツツキの音だけが森に響く。

 それにしても寒い。屋外のトイレで腰掛けていると、冷気に直接触れる鼻先と頬にビリビリと痛みを覚える。寒暖計は氷点下35度を指していた。

 新しい年はこうして明けた。年末年始は僕たちガイドにとっては書き入れ時。昼となく夜となく、毎年忙しく過ぎていく。

 昨年12月は例年になく雪の日が多く、オーロラもなかなか姿を現してくれなかった。そんなとき、不安げに空を見上げるお客さんたちの表情に、ガイドは気をもむものだ。

 くっきりとした初オーロラは2日の深夜だった。雪をかぶった森が月光で水底の世界のように青白く浮かび上がっていた。久々に雲一つなく晴れた星空にそれは現れた。

 流れにたゆたう藻のように、乳白色の淡い光が北の低空に漂い始める。「すごい!出てきた、出てきた!」。興奮する人、淡々とカメラのシャッターを切る人、寒さでカメラが動かなくなり慌てる人、ただ静かに空を見つめる人…。暗闇の向こうから、お客さんたち一人一人の呼吸が伝わってくる。

 オーロラは弧を描くように左右に広がると、次第に明るさを増し、緑白色の光となってゆらゆらと明滅を繰り返した。やがて、頭上をまたぐように大きなオーロラも現れ、私たちを天空のステージへと誘った。視線を落とせば、できたばかりのオーロラ観測キャビンの窓は、そこだけが暖かそうに、まきストーブが放つオレンジ色の光を映していた。

新春2日深夜、初オーロラをバックにお客さんたちを記念撮影した=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅で新春2日深夜、初オーロラをバックにお客さんたちを記念撮影した=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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