アラスカに暮らす

冬を越す小さきものたち 〜アラスカに暮らす(41)〜

2011年11月21日

アラスカに暮らす(41)

■勇気くれるけなげな姿

 日本で4週間ほど過ごし、アラスカ州フェアバンクス郊外のすみかに戻った。ここをたつ前、秋枯れの様相であった森が、帰ってみると、根雪となった30センチを超える積雪で真っ白になっていた。

 日本では、10月中旬にもかかわらず夏日を体験し、短パンとランニングシャツでも汗だくの夜を過ごしたばかりだというのに、ラジオの天気予報は、内陸アラスカは翌日から氷点下40度の寒波に見舞われると告げていた。一月足らずで生活する場の気温が70度も変わるのだから極端だ。地球とは本当に広く、緯度による気候の差異に富んだ星だということか。

 久しぶりに自室の寝袋の中で目が覚めた朝のこと。窓にいくつかの小さな影が躍ったのに気がついた。外に視線を移すと、スズメほどの大きさの小鳥がシラカバのこずえを行き来しながら、しきりにその種をついばんでいた。頭のてっぺんがくっきりと紅色に染まっている。ベニヒワだ。

 用足しのために靴を履き、外にあるトイレ「アウトハウス」の戸を開けると、その隅っこの細い溝の陰で、枯れ葉のような紋様の羽を持つタテハチョウが冬眠していた。

 そういえば、3月の寒さが少し緩んだある午後、季節はずれに雪景色の森の中を飛ぶ一羽のタテハチョウを見つけたことがあった。こんなふうに冬眠していた最中に、ひょんな陽気に誘われて舞い出てきたのだろう。

 チョウやカメムシが冬眠することは知っていたが、案外身近なところで冬を越すものもいるのだなあ。

 暗く長い冬に閉じ込められるような不安から、「キャビンフィーバー」と呼ばれる一種の季節的なうつ病にかかる人も、ここアラスカでは少なくないと聞く。これから厳しい寒さに包まれる真冬を山小屋風情の一軒家で越す身としては、小さな生き物のけなげな姿から、春を待つかすかな希望と勇気を分けてもらったような気持ちにもなれる。

 トイレの片隅で冬を越す彼らとこれから毎日対面できることに喜びにも似た感情を抱きながら、チョウがまぶしい青空の下を舞う、そんな季節に早くも思いをはせている。

タテハチョウ(円内)が冬眠するアウトハウス。ここで毎日一度はチョウと対面する=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅でタテハチョウ(円内)が冬眠するアウトハウス。ここで毎日一度はチョウと対面する=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

地球のいのち、つないでいこう

中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ 記事全文へ バックナンバー一覧 記事全文へ 一覧 一覧 一覧 一覧 一覧 一覧