アラスカに暮らす

ジニーからの贈りもの 〜アラスカに暮らす(39)〜

2011年10月31日

アラスカに暮らす(39)

■獲物に感謝の帽子作り

 まだ、郊外の自宅に引っ越す以前、フェアバンクスの街中にあるアパートに住んでいたときのことだ。

 トントン。ある冬の午後、誰かが玄関のドアを優しくたたいた。ドアを開けると、立っていたのはジニー。北極圏の人口30人ほどの小さな村ベツルスと、フェアバンクスで1年の半分ずつ暮らしている、先住民の血を引く70代のおばあちゃんだ。

 「ジニー、久しぶり!時間ある?上がっていくかい?」「それじゃあ、お茶でもいただこうかしら」

 その数年前まで、1人でスノーマシンを乗り回し、北極圏の原野でカリブーやムースの狩猟をしていた彼女も、根はおしゃれ好きで、落ち着いた人柄の持ち主だ。

 「最近、ビーバーの毛皮を手に入れたんだけど、これでビーバーハットが作れるかしら」。家内が、取り出したビーバーの毛皮を手に尋ねた。ジニーはしげしげと眺めながら、狩猟民族としての年輪を思わせる幾筋ものしわが刻まれたか細い指で毛皮を優しくなで、偶然持ち合わせていた型紙を当てた。

 「ちょうどいいサイズね。じゃあ今から作りましょうか」。ジニーが慣れた手つきで毛皮を裁断し始めた。横に座る家内がその手元を興味深そうに見ている。ビーバーの毛皮は雪が含む湿気を適度にはじくので昔から帽子に利用されてきた。

 窓枠に霜が厚くこびり付いたガラス窓から見える外の寒暖計は、マイナス25度を指していた。控えめに明かりがともる部屋の中で、暖房器具の音だけがブーンと低くうなっている。時折、家内が質問する。ジニーが縫う手を休め、小さな声で丁寧に教える。

 そんな時間が穏やかに流れていった。帽子の形が見えてくると、ジニーが家内の頭にかぶせた。「おやおや、ちょうどいい大きさだったねぇ」。彼女が言うとおり、帽子は家内の頭をすっぽりと包み込んだ。「あとは、仕上げ縫いをしたら出来上がりよ」

 獲物への深い感謝がおのずとにじみ出ているような心のこもった指先の動きによって、1匹のビーバーの毛皮が帽子へと生まれ変わる。僕は傍らに座ったまま、その過程をただ見つめていた。

形になってきたビーバーハットを家内の頭にかぶせるジニー=2007年2月、米国アラスカ州フェアバンクス市内のアパートで形になってきたビーバーハットを家内の頭にかぶせるジニー=2007年2月、米国アラスカ州フェアバンクス市内のアパートで

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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