アラスカに暮らす

シロクマがやってくる海岸(下) 〜アラスカに暮らす(36)〜

2011年10月10日

アラスカに暮らす(36)

■観察ルールづくり急務

 シロクマ(ホッキョクグマ)観察ガイドとして、アラスカ北極圏東北部の大部分を占める北極圏野生生物保護区のカクトビック村にツアー客と滞在していたときのことだ。

 クジラ猟の残骸として、海岸に置かれた骨に集まるシロクマを観察した翌日、小型ボートで北極海に出た。ボートを操縦するのは村の先住民エドワードさん。彼は保護区の公認ガイドで、同行する私も同じく公認ガイドだ。シロクマ観察ガイドが許認可制になったのは昨年からで、正式なボートガイドは今年から始まった。

 ボートがエンジンの音を低くして減速すると、霧の中に浮かぶ砂州の上の所々に、乳白色の毛を砂まみれにして寝そべっているシロクマの姿が見えた。好奇心旺盛な2頭の子グマが近づいてくると、水際で無邪気に相撲を取り始めた。

 保護区内に埋蔵される原油開発の是非をめぐって、開発派と保護派の論争が続いている上、近年は、シロクマが絶滅危惧種に指定されたことも加わって、この辺境域に熱い視線が注がれている。シロクマが期せずして注目の的となる中、秩序あるシロクマ観察のためのルールづくりが急務になっている。

 「ここは、古くから続く捕鯨とシロクマが互いに関係を保つ珍しい所」。宿で会った野生生物管理局の女性スタッフ、スージーさんはこう話し「クマが増えると、村に入るクマも増える。クマと人間、両者の安全を保つことが大切。ツーリズムとして、クマ観察が確立しているカトマイ国立公園(アラスカ州)と比べれば、まだ始まったばかりなのですから」と付け加えた。

 「現金収入のための貴重な仕事」。ボートガイドのエドワードさんも認める通り、シロクマ観察は、季節が限られているとはいえ、一部の村人が期待する新たな収入源だ。

 保護の推進と観光資源としてのアピールの両立を村は目指す。シロクマを取り巻く環境が変わりつつある今、ガイドとして関わりを持つことも無意味ではないはずだ。子グマが遊ぶ砂州の対岸では、鉛色の空から容赦なく吹く風にあおられ、打ち寄せる波が粉々に砕けていた。

北極海沿岸の砂州の上で戯れるシロクマの兄弟=米国アラスカ州、北極圏野生生物保護区で北極海沿岸の砂州の上で戯れるシロクマの兄弟=米国アラスカ州、北極圏野生生物保護区で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

地球のいのち、つないでいこう

中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ 記事全文へ バックナンバー一覧 記事全文へ 一覧 一覧 一覧 一覧 一覧 一覧