アラスカに暮らす

シロクマがやってくる海岸(上) 〜アラスカに暮らす(35)〜

2011年10月03日

アラスカに暮らす(35)

■解体クジラで夕ご飯

 夏季のガイドの仕事の締めくくりとして、シロクマ(ホッキョクグマ)を見に、北極圏野生生物保護区へ向かった。

 この保護区は、アラスカ北東部の広大な地域を有し、北は北極海沿岸まで、東はカナダ国境と接する。その国境線から70キロほど西方の沿岸に、カクトビックと呼ばれる人口約300人の先住民の村がある。

 村では毎年9月初旬、伝統的な沿岸捕鯨が行われる。解体されて残ったクジラの骨は海岸のある場所に置かれ、この時期、骨に残る肉を求めてシロクマたちがやってくる。

 「カナダとの国境付近にまたがるビューフォート海沿岸には、約1500頭のシロクマがいます。その約8%がカクトビックにやってきて、残りは氷上で暮らしています」

 カクトビックの宿で会った野生生物管理局の女性スタッフ、スージーさんの話だ。「過去20年で、クジラの骨に集まるシロクマの数は増加しています」と、スージーさんは付け加えた。

 シロクマは夕暮れから、骨に集まってくるという。宿のおやじさんが運転するトラックに揺られ、お客さんとクジラの骨が置いてある場所に向かった。おやじさんは、トラックを骨の山から50メートルほどの距離に止めた。

 見ると、骨の山を囲むように、地面から1メートルほどの高さに、1本のバラ線がぐるりと張り巡らされていた。「ここに来るシロクマのDNAを調べるための毛を採取する目的で、昨年から設置されたのさ」とおやじさん。

 間もなく、無数のカモメがほの白くうごめく薄暮の海岸線を、おなかが地面につきそうなほど肥えた雄のシロクマがのしのしと、いかめしくやってきた。そして、腹ばいになって器用にバラ線をくぐると、骨の山に登って肉を食らい始めた。

 クマが頭を揺さぶるとメリメリと肉が引きちぎられる音がした。そこへ、2頭の子どもを連れた雌のシロクマがやってきた。親子は、雄を避けるように距離を保ちながら、地面に横たわっている肉塊にありついた。シロクマの数は次第に増えていき、日がとっぷりと暮れるころには、10頭以上になっていた。

日没直後、クジラの骨にやってきたシロクマ。手前は毛を採取するためのバラ線=米国アラスカ州、北極海沿岸のカクトビック村で日没直後、クジラの骨にやってきたシロクマ。手前は毛を採取するためのバラ線=米国アラスカ州、北極海沿岸のカクトビック村で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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