アラスカに暮らす

北極圏に眠るサンゴの化石 〜アラスカに暮らす(34)〜

2011年09月26日

アラスカに暮らす(34)

■海の痕跡 くっきりと

 6月初旬、白夜を迎えたアラスカ北極圏、ブルックス山脈北麓。私は家内と息子の3人でたき火を囲み、キャンプをしていた。

 夜、にわかに降りだしたみぞれが、大地にしっとりと潤いを与えていた。テントの周囲を散策していた息子が小石をつかんで駆けてきた。「パパ、見つけたよ。どう?」「どれどれ。うん、化石だよ」「わーい、やったー!」

 ブルックス山脈では、1万年以上前に山脈を覆っていた氷河の浸食作用により、U字形の谷が形成され、その底を流れる沢のほとりなどで、化石を見つけることがある。それらは主に、今をさかのぼること3億数千万年前、浅い海の底に生息していたサンゴやウミユリの化石だ。

 もうずいぶん前、この辺りのツンドラをハイキングしていて、200メートルほど離れた沢の脇のやぶから現れたグリズリーに追いかけられた。丘の上へ急ぎ、振り返ると、グリズリーは30メートルの距離にまで迫っていた。

 と、そのとき、私の背中をなでた風がすっとグリズリーのいる方向へと吹いた。人の匂いにグリズリーは驚いたのか、一瞬伸び上がり、匂いを確かめるように首を左右に振ると、きびすを返し、もと来た方へと一目散に駆けだした。

 私は安堵(あんど)の思いでその場にしゃがみ込んだ。ふと手に触れた小石を裏返すと、そこには海の生き物の痕跡がくっきりと刻み込まれていた。それが、北極圏での化石との出合いだった。荒涼としたツンドラ、岩塊に覆われた山並みが、かつて温かい海の底だったことを想像し、不思議な気持ちに包まれた。

 手のひらに載る小さな石塊にも、地殻の移動と隆起、浸食作用というダイナミックな大地の運動、そして、地球が持つ、とてつもなく長い時の流れが確かに刻まれている。

 ブルックス山脈の谷を渡る風に泳ぐツンドラの草が、さざなみのようにざわめいて見えた。目をつむり、日差しの温かさを感じた。さながら、太古の海の浅瀬に打ち寄せる波に揺られているような心地よさを覚えた。

北極圏で採取したサンゴやウミユリなどの化石=米国アラスカ州フェアバンクスの自宅で北極圏で採取したサンゴやウミユリなどの化石=米国アラスカ州フェアバンクスの自宅で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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