アラスカに暮らす

北極圏ツンドラのまばゆい秋 〜アラスカに暮らす(33)〜

2011年09月19日

アラスカに暮らす(33)

■大地に「色の展覧会」

 8月から9月にかけては、ガイドの仕事でアラスカ北部に出掛けることが多くなる。

 「わあっ、ふかふか」「足首が沈みそうな感じ」−。北極圏に広がるツンドラ地帯に足を踏み入れると、初めて訪れる人は、スポンジのような地面の感触にまず驚く。

 そこは、私たちが見慣れた松や杉、シラカバなどの木の生育を許さない場所。低木類や草花、コケや地衣類に覆われた地面が果てしなく続き、高緯度地方特有の景観がつくり出されている。

 秋、このツンドラの大地は1年で最も鮮やかな季節を迎える。

 「このオレンジ色の葉は何ですか?」「ウラシマツツジです」。ツアー客によく聞かれるこの植物は、日本の高山帯にも生育する。夏には、さほど気にも留めなかった葉が地面にはいつくばりながら身を寄せ合い、さながら太陽が24時間、天に君臨する季節の終わりを告げるかのように、濃い紅色で台地を染めている。

 別の植物は、5センチにも満たない高さの節くれだった枝に赤紫色の葉が付き、その隣に直径5ミリほどの群青色の実がなっている。「これもブルーベリーですか?」とツアー客の1人。確かめようと、みんなでつまみ、舌に転がしてみたら、甘酸っぱい香りが波紋のように広がった。

 幾重にも張り巡らした枝を、ギザギザの縁取りのだいだい色や黄色の丸い葉で着飾ったヒメカンバ。濃厚な赤ワインのような色のヤナギランの葉。そして、若葉のような淡い緑や、やまぶき色の葉をたたえた極地ヤナギの仲間たち。

 そのどれもこれもが地平線の上から低く差す太陽に照らされ、赤子の頬のように透き通って輝いている。

 春夏秋冬−。訪れる人の少ない極地にも等しく巡る季節は1年に一度、ほんの短い間、茫漠(ぼうばく)たるツンドラの大地に「色の展覧会」を繰り広げる。

 それは、雪と氷、闇と星、白と黒に凝固した沈黙の冬に追われるかのように急ぎ足で駆け抜けた真夏の太陽の残り香。まばゆい秋は、夏が置き忘れた彩りのパレットなのかもしれない。

ヒメカンバなどが紅葉するツンドラをハイキングするツアー客たち=米国アラスカ州、北極圏のブルックス山脈でヒメカンバなどが紅葉するツンドラをハイキングするツアー客たち=米国アラスカ州、北極圏のブルックス山脈で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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