アラスカに暮らす

夏の夜に出合ったグリズリーベア 〜アラスカに暮らす(32)〜

2011年09月05日

アラスカに暮らす(32)

■ドキドキ…15メートルまで接近!

 家族3人で、アラスカ北極圏へキャンプに出掛けた。

 フェアバンクスから陸路で北極圏へ行くには、北極圏を南北に縦断するダルトンハイウエーを利用する。アラスカ内陸と北極海沿岸の原油掘削基地を結び、フェアバンクスから北の終点、プルドーベイまでは約800キロ。アラスカ北極圏における唯一のハイウエーでもある。

 ある夏の晩、プルドーベイまであと50キロほどの河原に入ったところでテントを立てていると、遠く離れたツンドラの上に、丸い毛玉のような、なにやら大きそうな獣の姿が見えた。

 双眼鏡をのぞくと、それはグリズリーベアだった。きっと居眠りでもしていたのだろう。そのクマはむくりと起きると猫のような背伸びをし、ゆっくりと歩きだした。鼻先で地面を探るようなしぐさを見せながら、時々、両方の前脚で地面をわしわしと掘る。地面に穴を掘って生息している北極地リスを探しているようだ。

 それにしてもなんと穏やかな光景だろう。地平線のかなたまで見渡せるツンドラの上に、動くものはそのクマ1頭だけ。しばらく観察していたら、クマは僕たちのいる方へと近づいてきた。「わあっ! クマがこっちへ来るよ!」「車に入って!」。車に入ればまずは一安心。

 窓を少し開けて、そこからカメラの望遠レンズを突き出すと、クマの顔がファインダーいっぱいに飛び込んできた。こちらをにらみつけるようなクマの表情がはっきりと分かる。「パパ、ママ、僕たちを見てるよ」。息子が興奮を抑えるように、声を殺して話しかけてくる。

 車の中にはいるものの、緊張で胸がドキドキと高鳴った。「すごいね。ほら、どんどんこっちに来る」。クマは、僕たちからほんの15メートルほどの距離までやってくると、鋭い目でにらみを利かせながら、来た方へと帰って行った。

 真夜中0時の太陽が北の地平線の上から低く差し、チョウノスケ草の白い花が風に揺れるツンドラの台地を金色に照らし出していた。

こちらをにらみつけるグリズリーベアこちらをにらみつけるグリズリーベア

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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