アラスカに暮らす

巨大な網でサケをすくう 〜アラスカに暮らす(31)〜

2011年08月29日

アラスカに暮らす(31)

■釣りというより漁の趣

 アラスカ州の住民にのみ許された「ディップネットフィッシング」という釣りがある。釣りざおは使わず、長さ約3メートルの柄の先に付く直径1メートル近くの巨大な網「ディップネット」でサケをすくうので、そう呼ばれる。

 釣りというよりはむしろ漁という趣だ。フェアバンクスから南東へ車で約6時間走ると、漁場であるチトナという場所に着く。

 ここは、氷河に源流を発するカッパー川が流れ、夏の間にサケが遡上(そじょう)する。100メートルを超える川幅いっぱいに、氷河が削り取った土砂を抱き込んだセメント色の濁流が渦巻き、水温は極めて低い。渡し舟がそれぞれのポイントへ運んでくれる。

 この釣りで最も重要なアイテムは命綱。なぜなら、渡し舟から下ろされるポイントは、断崖絶壁。両足でようやく立てるような猫の額ほどの岩の上だからだ。渡し舟を下りると、崖に生えている適当な木をみつけ、命綱でその木の幹と自分の腰を結び付ける。それから崖の上に立ち、長い柄をつかんで、その先の網を濁流の中に差し入れる。

 濁り水の中、サケには網が見えないのだろう。それがサケの捕獲には好都合で、一心不乱に流れに逆らうサケは、知らぬ間に網へと迷い込む。適当なタイミングで柄を持ち上げると、網の中には、真っ赤な婚姻色になる前の、にび色の紅ジャケが入っているというあんばいだ。

 通常、1回につき、1家族で30匹の紅ジャケと1匹のキングサーモンの捕獲が認められている。サケの遡上量や、下ろされたポイントの良しあしにもよるが、規定量の捕獲に、早い時は3〜4時間、時には10時間以上かかることもある。

 船着き場に戻ると、その横にある解体場で内臓を取る。現地の人たちは、日本では高級品であるイクラやハラスを惜しげもなく捨てている。それを狙って急降下するのはカモメたちだ。クーラーボックスに詰め込んだサケは、家に戻ってから、スモークサーモンにし、イクラはばらして、しょうゆ漬けを作ったりする。

ディップネットと30匹のサケを持つ筆者=米国アラスカ州チトナでディップネットと30匹のサケを持つ筆者=米国アラスカ州チトナで

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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