アラスカに暮らす

永久凍土にお墓を掘る 〜アラスカに暮らす(26)〜

2011年07月18日

アラスカに暮らす(26)

■つるはしで硬さ砕く

 「あと1分で出かけるよ! 準備なさい!」。アラスカ州バローに住む友人、ユニスの自宅を訪れていたとき、まくしたてるようにこう告げられた。

 ユニスは時々、この調子。何の予告もなく、突然、ことが始まるのにはいつも戸惑ってしまう。車に押し込まれて、着いた場所は町外れの墓地だった。湿ったツンドラの中に十字架が並ぶ。

 「私のシスターのために来てくれてありがとう」。車を降りるや否や、見知らぬおばさんが抱きついてきて、周囲もはばからず、おいおいと泣きだした。5分もそうしていると気持ちが落ち着いたのか、彼女は僕を解放してくれた。

 と、ユニスからつるはしを渡された。これで、ここに連れてこられた理由が分かった。「あなたも墓掘りを手伝いなさい」ということだ。おばさんはユニスの友人らしい。

 バローは、大地が1年中凍っている永久凍土の上にある。夏の間に氷が解ける地表の約30センチより下は、コンクリートのようにガチガチに凍っている。まず、巨大なチェーンソーが付いたような重機で、凍土に4つの溝を掘った。それから、溝の間に残った凍土をつるはしと掘削機で打ち砕いていく。

 久しぶりにつるはしを振るが、凍土はすこぶる硬く、作業はなかなか進まない。腰が痛み、腕がしびれてくる。それでも、少しずつ掘り下げ、砕いた凍土をロープでつるされたバケツに入れた。満杯になると、地上で待っている人が引っ張り上げる。気がつけば全身どろどろだ。

 故人とつながりがあったと思われる10人ほどの男たちが入れ代わり立ち代わり、深さ約2メートルになるまで掘り続けた。昭和を代表する歌手、三波春夫の著作「三波春夫でございます」には、大戦後のシベリア抑留時、鉄棒1本で凍土に穴を掘らされた様子が記されていた。その苦労がいかほどのものだったかを、そのとき、ありありと実感した。

 「昔はこれほど深くは掘らなかった。もっと古い時代は、ツンドラの上にそのまま葬ったのさ」。3月、バローでウミアック(エスキモーの猟舟)作りをしたときに知り合った友人ミキも来ていて、そう教えてくれた。

 墓地の周りには、何羽かのシロフクロウが茶褐色のツンドラの上にたたずんでいるのが見えた。

チェーンソーと同じ仕組みで凍土を掘る重機=米国アラスカ州バローでチェーンソーと同じ仕組みで凍土を掘る重機=米国アラスカ州バローで

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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