アラスカに暮らす

バローのクジラ祭り 〜アラスカに暮らす(25)〜

2011年07月04日

アラスカに暮らす(25)

■豊富な食べ物 猟に感謝

 地面をはう乾いた冷たい風で肌がぱりっと引き締まる。アラスカ州最北の町バロー。6月下旬、現地の友人家族とクジラ祭り「ナルカタック」に出掛けた。

 正午、北極海に面した広場の中央に4人のキャプテンが集まると、クルーが手をつなぎ、輪になって彼らを囲んだ。キャプテンの中に見える60代、70代もバリバリの現役。猟の神様に感謝をささげる祭りは、猟に成功したクジラ組によって運営され、豊富な食べ物が供される。

 クジラの冷凍肉に皮下脂肪マクタック。ゆでた舌や腸。味なしドーナツと相性がいいカモのスープ…。誰もがゴクリと喉を鳴らすミキヤックは、クジラの赤身を発酵させたもの。一見グロテスクだが、とろけるような食感に酸味と甘みが混ざり合い、美味。カリブーの脂肪にベリーを混ぜた「エスキモーアイスクリーム」という食べ物は、冷たくないのにそう呼ばれる。

 会場で、春のクジラ猟で手をドリルに巻き込まれたソルマンと再会した。けがは快方に向かっている様子。ソルマンは「あと2回の手術が必要なんだ」と手首を見つめた。

 夕方、ブランケットトスが始まると祭りは一段と盛り上がった。猟舟からはがしたアザラシの皮の回りを人々がつかみ、トランポリンのように跳ねる。

 我こそはと思う者たちが先を争ってよじ登っては、高く舞い上がる。中には空中回転する者もいる。「次は君だ!」。皆の声に押され、僕も跳ぶはめになった。何を隠そう、高所恐怖症なのだ。跳ぶというよりも、投げられている感じでピエロのようにおどけると、会場が爆笑の渦に巻き込まれた。

 深夜、体育館でエスキモーダンスが始まった。ダン! ダンダン! ダンダンダン! 一列に座った男たちが、丸いうちわのような太鼓を弓のように細いバチでたたく。「ヤンゲヤンゲヤ〜」。土着のリズムに勇壮な歌声が重なっていく。舞い踊る老若男女。

 中に、神がかり的状態を呈している男がいた。魂が爆発するような強烈なオーラを全身からめらめらと放っている。「アウッ! アウッ!」。獣の声を模したような声援が四方から飛ぶ。クライマックスに向けて、熱気が巨大な塊となって場内を満たしていった。

ブランケットトスは沖のクジラを探すために行われたものだという=米国アラスカ州バローでブランケットトスは沖のクジラを探すために行われたものだという=米国アラスカ州バローで

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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