アラスカに暮らす

北極圏野生生物保護区へ 〜アラスカに暮らす(24)〜

2011年06月27日

アラスカに暮らす(24)

■眠りを妨げる喧騒

 「荷物が重すぎるから、ここで降ろしてもいいか」。パイロットの声がヘッドホンから聞こえた。当初の話と違うが仕方がない。軽飛行機が旋回を始めると、視界が大きく傾いた。そして、ぐいぐいと下降すると、タイヤをバウンドさせ、河原に着陸した。

 アラスカに移住した2003年6月、弟と友人の3人で、北極海に注ぐ川をカヤックで旅した。カナダ国境と接する北極圏野生生物保護区内である。

 その辺りにはカリブーの大群がやってくるという。幸運にも、3日目の朝、テントが数百頭のカリブーに囲まれていた。それから3日間、時にカリブーは1000頭を超える群れで、通り過ぎていった。

 3週間目、僕たちは北極海に出ていた。沿岸には陸に沿って点々と砂州が延びており、興味深いことに、ある砂州では、カリブーのあご骨やクジラの背骨などが散乱し、木を円形に組んだ朽ちた住居跡も見つけた。

 こんな地の果てに、かつて人の暮らしがあったのだ。野営地に選んだ幅30メートルほどの砂州からは、海側に外海を覆う浮氷、陸側にブルックス山脈の岩峰群が遠望できた。森林限界から数百キロも北方の砂州なのに、海流に乗って、はるばる運ばれてきた直径20センチほどの木がごろごろ転がっていた。

 それらを集めて巨大なたき火にした。夜とはいっても、太陽は海の上で輝いている。波頭が立つほどの向かい風の中を一日中こいだので、その日は疲れており、テントに入ればバタンキュー間違いなしだった。

 ギャーギャー、クワックワッ、キーキーッ! ところが、いざテントに入ると、外の喧騒(けんそう)が気になりだした。砂州は渡り鳥たちの営巣地でもあったのだ。羊が1匹、羊が2匹…と数えたが、羊では歯が立たなかった。そこで、シロクマが1匹、シロクマが2匹…と続けたものの、「シロクマって肉食だったよな」と、背筋が冷たくなり、ますます目がさえてしまった。

 今度は、昼に見た遺跡に思いを巡らせてみた。会ったこともない人々がそばにいるような気がした。すると喧騒は耳から遠ざかり、いつしか睡魔に誘われたのだった。

流木はからからに乾いていて、実によく燃えた=米国アラスカ州、北極圏野生生物保護区の北極海沿岸で流木はからからに乾いていて、実によく燃えた=米国アラスカ州、北極圏野生生物保護区の北極海沿岸で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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