アラスカに暮らす

山火事、わが家に迫る 〜アラスカに暮らす(23)〜

2011年06月20日

アラスカに暮らす(23)

■恐ろしい夏の風物詩

 頭のてっぺんから、つま先まで、全身すすだらけの2人の男が、わが家を訪ねてきたのは、6月に入ってすぐの夕方だった。

 男たちはいささか疲れた様子で、アラスカ州森林管理局のスタッフであることを名乗ると、硬い表情で「山火事の火の手がここから8キロのところまで迫っている。いつでも避難できるよう、貴重品をまとめておきなさい」と告げていった。

 山野火災は内陸アラスカの夏の風物詩のようなもの。その要因には、雷、風、人為的なものなどが挙げられる。広大な手付かずの森は「タイガ」とも呼ばれる。その主役は針葉樹であるトウヒだ。たき火に投じると分かるが、この木は生木の枝葉でもあっという間に燃える。

 北極圏の森林地帯を灰にした2004年の火災は、記録的な猛威を振るったことで記憶されている。実際にその火勢を目の当たりにしたときの恐怖は忘れられない。森のあちらこちらから火炎が上がり、バリバリと激しくはぜるとともに、生木の樹脂や水分が沸騰する奇妙な音がシューシュー聞こえた。

 むせるほどの煙が充満し、場所によっては視界が30メートル足らず。のたうちまわる巨大な竜たちのような煙の隙間から、オレンジ色の太陽が火の玉のように不気味に見え隠れした。炎になめ尽くされ、数十キロ先まで真っ黒い焼け野原が広がったかつての森は、見知らぬ惑星のようだった。

 内陸アラスカの森林は、およそ150年から300年のサイクルで燃えるという報告がある。鎮火後、いち早く大地をピンクに染めるヤナギランの花、それから数年後にやってくるヤナギなどの低木類。そして数十年かけてシラカバ、やがてトウヒの森へと変遷を遂げる。それ自体、本来は自然のサイクルだ。

 近年、火災の数が増え、規模も大きくなる傾向だとして、専門家による研究が始まっているとも聞く。

 6月12日夜、待望の雨が降った。「俺はタイラー。グッドニュース! 火は収まったよ」。翌朝、毛糸の帽子をかぶったニヒルな消防士がやってきてそう伝えていった。

黒煙をオレンジ色に染めて、炎が迫る。2004年に起きたアラスカの観測史上、最大の山野火災=米国アラスカ州、北極圏付近の森林地帯で黒煙をオレンジ色に染めて、炎が迫る。2004年に起きたアラスカの観測史上、最大の山野火災=米国アラスカ州、北極圏付近の森林地帯で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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