アラスカに暮らす

斧を手に春の川を渡る 〜アラスカに暮らす(20)〜

2011年05月23日

アラスカに暮らす(20)

■厳しい冬越え深呼吸

 日本のゴールデンウイークにあたる5月初め、ツアー客をガイドしながら、ブルックス山脈で自給自足を営む友人、トッドに会いに行った。

 北アラスカを南北に縦断するダルトンハイウエーを北上する。道端では、新芽を吹き始めたヤナギが日差しの中でキラキラとまぶしい。大河ユーコンはまだ凍っていたものの、所々に青い水たまりができ、解氷が遠くないことを告げていた。

 快調にハンドルを握っていると、対向車線をやってきた大型トラックが何か意味ありげに止まったので、その横に車を寄せた。

 運転席からこちらを見下ろす無精ひげのおやじに「どうしましたか?」と切り出すと、「クマを見なかったか? 数日前に峠の北で出たらしい。俺は1週間前に峠の南で見たんだがな」と続けた。クマが冬眠から覚める季節がやってきたのだ。アラスカらしい会話である。

 トッドの住む場所に着くと、僕たちの到着を待ちかねていたように川を歩いて渡ってくる彼の姿が見えた。トッドの住む山小屋とハイウエーの間には、幅300メートルほどの川がある。橋はないので、冬は凍った川の上を、夏は水の中を歩いて行き来する。増水時に渡れないことも珍しくない。

 トッドは手に持った斧(おの)をつえ代わりに、緩み始めた氷の上を慎重にやってくると、「2日前に川が流れ出したんだ」と、うれしそうに言った。

 僕たちも1本ずつ斧を持って歩き出す。斧の先で氷をたたくと、薄いところでは斧がつき抜け、5センチから15センチほど沈んだ。そこでは、氷の下で水がちろちろと流れていても、川床はまだ凍ってつるつるであった。斧が氷の強度を知らせるセンサーの役目も果たしているのだ。

 彼の斧はまき割りに加え、獲物の解体や、春の川を渡るときにも活躍する。川を渡りきると、トッドは立ち止まり、森と空をぐるりと一望し、目をつむって大きく深呼吸した。それは、厳しい冬を自力で越えた者のみに与えられる幸福な瞬間にも感じられた。

斧を持って、解け始めた川を渡るツアー客=米国アラスカ州、北極圏のブルックス山脈で斧を持って、解け始めた川を渡るツアー客=米国アラスカ州、北極圏のブルックス山脈で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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