アラスカに暮らす

春のクジラ猟(上) 〜アラスカに暮らす(13)〜

2011年04月04日

アラスカに暮らす(13)

■海氷にベースキャンプ

 バローの沖数キロ、白夜間近の陽光がギラギラと照り返す北極海の氷上で、つるはしを振るって氷を打ち砕く音がザクザクと響く。イヌピアックエスキモーのハンターたちがクジラ猟に使う道を造っているのだ。

 冬の間、海を覆っていた氷は春、気温の上昇とともに緩み、風や海流などの影響で裂けて、リードと呼ばれる海面が現れる。このリードづたいに、息継ぎしながら近海にやってくる北極クジラを捕獲するのが春のクジラ猟だ。クジラを見つけやすく、猟舟を素早く出せるリード沿いの氷上はベースキャンプに格好の場所。陸からリードまでの安全なルートの確保は猟の成否を占う上でも重要なのだ。

 晩ご飯を済ませ、友人のスノーモービルで現地に着くと、「よく来たな。おまえもやってみるか」と、つるはしを手渡された。初めて握るつるはしはずしりと重く、足元の氷が突然抜け、海中に落ちてしまうのではと気が気でなかった。がむしゃらに振り回したせいか、腕と腰はすぐにがたぴし鳴り出す始末。一方のハンターたちは適度に交代しながら、慣れたものだ。

 ルートが完成し、バローの町の友人宅に戻ったのは午前2時。きしむ体を寝袋に押し込むと、泥のような眠りに就いた。

 翌日、猟舟のウミアックやテント、燃料や食料などを積んだ各そりを引いた8台のスノーモービルに分乗してキャンプ予定地へ向かった。大きな起伏では、そりがひっくり返らないように減速しながら慎重に、平たんな場所では軽快に風を切って進んだ。

 さすが熟練のハンターたち。現場に到着すると、30分足らずでベースキャンプが出来上がった。テントは三角屋根の帆布製。10人は寝られそうな板敷きの床面にはカリブーの毛皮が敷かれた。

 隅に食料箱、その横には暖房用の灯油ストーブと、氷を溶かして飲料水を作ったり、調理をしたりするプロパンストーブを設置。入り口付近に立てられたアンテナの下には、町と交信するための無線機も置かれた。

 「クジラが見えるぞ!」。テント脇にそびえる氷塊に上ると、紺ぺきの空と黒い海が交わるかなたを悠々と泳ぐクジラが見えた。

氷塊の上でクジラを見つけたハンターたち=米国アラスカ州バローの沖の海氷上で氷塊の上でクジラを見つけたハンターたち=米国アラスカ州バローの沖の海氷上で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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