アラスカに暮らす

春を呼ぶ風変わりな祭り 〜アラスカに暮らす(12)〜

2011年03月28日

アラスカに暮らす(12)

■自慢のトイレで滑走

 フェアバンクスから北東に車で50分。チャタニカという集落で、毎年3月中の週末の2日間、チャタニカデイズという祭りが開かれる。

 残念ながら、今年は主催者側の都合で中止となったが、スノーモービル同士の綱引きや、男たちの“ももひき”姿自慢コンテストなど、風変わりな出し物で知られ、中でも「アウトハウスレース」は冗談のような本気企画として人気だ。

 下水道が来ていないアラスカの郊外の家では屋内にトイレがないことも珍しくない。そうした場所では、アウトハウスと呼ばれる屋外トイレが一般的だ。基本構造は、地面に好みの大きさの穴を掘り、その上に便座を備えた小屋をかぶせた「ボットン便所」。

 このアウトハウスの下にスキーをはかせ、1人が便座に座って2〜4人の男たちが押して雪の上を滑走していくのがアウトハウスレースだ。観衆の表情には、長い冬から抜け出し、ようやく訪れつつある春への期待がこぼれ、誰も彼も笑顔にあふれている。

 たかがボットン便所と侮るなかれ。重厚な木材で組まれたログハウス風や、クリスマスツリーのように飾られてチャーミングなもの、自然との一体感をひたすら追求し、便座だけをぽつんと森の中に置いたものまで、それぞれに利用者のこだわりが見え隠れする。

 アラスカならではのトイレ文化は「アウトハウス・オブ・アラスカ」という写真集にもなるほど。著者のハリー・ウォーカー氏は「明日、あの丘の向こうに、今まで見たことがないようなすてきなアウトハウスが待っているに違いない」と、このアラスカンスタイルのトイレに対して、愛情に満ちた後書きを記している。

 かくいう私も、いながらにして森の四季の移ろいを感じられるようにと、縦40センチ、横1メートルの大きな窓を正面に据えた畳2畳の広さのアウトハウスを庭にこしらえた。

 少し変な趣味かもしれないが、朝一番、小鳥のさえずりに耳を傾けながら便座にじっと腰掛け、ひきたてのコーヒーを飲むのは、なかなか味わい深く、ぜいたくなひとときだと感じたりするのだ。

alaska_20110321.jpg数年前の祭り。スキーをはいたボットン式トイレ「アウトハウス」が青空の下を疾走する=米国アラスカ州チャタニカで

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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