アラスカに暮らす

伝統の猟舟「ウミアック」を作る 〜アラスカに暮らす(11)〜

2011年03月21日

アラスカに暮らす(11)

■流木とアザラシの皮で

 北極海に面し、1本の木も生えないツンドラにあるアメリカ最北端の街、バロー。人口約4500人のうち、この地域の先住民イヌピアック・エスキモーが6割を占めるこの街の工房で、彼らの主食である北極クジラを捕るための伝統的な舟「ウミアック」の製作が始まっていた。

 この舟の特徴は、資源の極めて少ない極地で、海岸に漂着する流木と海獣を利用したことにある。流木を丹念に加工した骨組みは波に対してしなやかで、アザラシの皮を張ることで浮力を得る。

 全長約5〜6メートル、最大幅約1.5メートル。ウミアックは既に500年前には、折りたたみ式カヌーとそっくりな骨組みの構造を獲得していたらしい。このことからうかがえるのは、海とのつながりが深かった人々の豊かな発想と知恵。男たちが手を入れている骨組みは所々、ひもやテープで巻かれ、いかにも使い込まれた感じ。20年以上使っているという。

 傍らでは、10人の女性たちが、床に並べられた6頭分のアザラシの皮を囲むようにしゃがみ、カリブーの腱(けん)から作られた糸で皮と皮を器用に縫い合わせている。老練なキャプテンが見守る中、中学生くらいの男の子や女の子が仕事を教わる光景はほほ笑ましく、同時に、ここが次世代へと技が引き継がれていく場であることをも教えてくれる。

 それにしても、女たちのなんと陽気なことだろう。ジョークを発した本人はもとより、全員が涙を流すほど大笑いする場面が何度もあった。屈託がない女性を見ていると、こちらまでなにやら愉快な気分になってくる。

 1年の大半を雪と氷に閉ざされたバロー。文字通り地の果てともいえる世界で、人がついのすみかを定めることができたのは、女性たちの陽気さと決して無縁ではないだろう。ほおを緩めながらも彼女たちの指先の針からは、アザラシに魂を吹き込むかのように丹念に糸が通される。

 私は、舟の姿に、よみがえったアザラシたちが狩人を乗せてクジラを迎えに行く様を想像した。朝10時から始まった作業を終え、ウミアックが完成したのは、翌朝4時のことであった。

alaska_20110321.jpg船体布にするアザラシの皮を縫う女性たちとウミアックの木製フレーム=米国アラスカ州バローで

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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