アラスカに暮らす

貧者のロブスター 〜アラスカに暮らす(10)〜

2011年03月14日

アラスカに暮らす(10)

■あん肝に似たうまさ

 言われる身にしてみればうれしくないだろうが、アラスカには「貧者のロブスター」と呼ばれる魚がいる。白身の味がロブスターに似ているらしく、店ではお目にかかれないレア物だ。正式名はバーボット、タラの仲間である。

 ある日、フェアバンクスの南を流れるタナナ河畔で夕日の写真を撮っていた。100メートルはある川幅を覆う氷の上には、バーボット釣り特有の仕掛けを示す木の棒が数本立っていた。ふと、1台の車が傍らに止まると、つなぎの作業服に綿菓子のような白いひげをたたえた、いかにもアラスカンらしい風貌の大男が降りてきた。

 「俺はクレッグ。仕掛けを見に来たのだが、一緒に来るか」。男はそう言って、岸から30メートルほどの釣り場に私を導くと、厚さ30センチほどの氷の穴から仕掛けを上げる作業に取り掛かった。

 「この釣りは、凍った川に穴を開けて仕掛けを落とすんだ。バーボットは根魚だから、重りに石ころを付ける。針に餌となる魚の切り身を引っかけ、昨日、川床に沈めておいたのさ」

 「貧者の」と呼ばれる割には手間と時間がかかるためか、この釣りを楽しむのは、一部の熱狂的ファンに限られている。果たして、クレッグ氏の針には、見事、1匹の獲物がかかっていた。

 「昨日捕ったやつの半分の大きさだ。よかったら君にあげるよ」。謙遜しながら、それでも40センチ近くある魚のえらの辺りに手早くナイフを1周させると、その切り込みにペンチの先をかけ、手際よく皮を尻尾の方に引っ張り、丸裸にした。

 次にナイフで3枚におろすと「珍味だが、これも試してみるか?」と取り分けたレバーを身と一緒に袋に入れてくれた。「もちろん。日本人はフィッシュピープルなんだ!」。早速、その足でいただいた獲物を酒好きの知人宅に持ち込んだ。

 空揚げにした身は、アナゴのてんぷらのような柔らかな歯応えで、なかなかいける。肝は、さっと湯通しして酢じょうゆに浸し、ネギと一味唐辛子を振りかけた。箸先でつまみ、口に運ぶと、あん肝に似た濃厚な舌触りと深いコクがあり絶品であった。

引き上げたばかりのバーボットを見せるクレッグさん=米国アラスカ州フェアバンクスのタナナ川で引き上げたばかりのバーボットを見せるクレッグさん=米国アラスカ州フェアバンクスのタナナ川で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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