アラスカに暮らす

犬ぞりにかける青春 〜アラスカに暮らす(9)〜

2011年03月07日

アラスカに暮らす(9)

■氷雪の荒野駆け巡る

 「トランスミッションオイルを持ってないか? 俺のトラックのが漏れてるんだ」。ドアを開けるやいなや、くりくり目玉が印象的な顔が飛び込んできた。スベン・ホルトマン、33歳。わが家の隣人である。

 生まれ故郷のスイスを後に、彼がアラスカに渡ったのは2001年。プロの犬ぞりレーサーになるためだった。犬ぞりはアラスカ州の公式スポーツだ。

 スベンは今、5日にスタートした「アイディタロッド犬ぞりレース」に4度目の挑戦を果たしている。

 アンカレジ北の町ウィローからベーリング海に面したノームまでの約1800キロもの距離を駆ける。時にブリザード(暴風雪)が吹き荒れる凍ったベーリング海をも越えなくてはならない世界最長の犬ぞりレースだ。その史上最高記録は、かつてスベンが師事したマーティン・ブーザーが打ち立てた8日と22時間46分2秒。

 このレースは、1924年12月、ジフテリアに見舞われたノームを救うため、翌1月、ワシントン州からフェアバンクスまで空輸された血清をフェアバンクス南街のネナナから、約1100キロ離れたノームまで犬ぞりで運んだことに由来する。

 スベンがアラスカでの暮らしと犬ぞりについて語ってくれた。「40頭の犬の餌代には毎月15万円。レースに参加するには、エントリーフィー(出走料)も含めると、ざっと150万円はかかるんだ。唯一にして最大の悩みといえばお金のことかな」

 「それでも」とスベンは続け、「俺は大自然の中で自分の暮らしをつくりたかった。スイスでは全ての自然が管理されていたからね。ここは水も電気もないけど、庭にはクマやヘラジカがやってくる。シンプルで充実した時間、そう、『リアルライフ』を手に入れたのさ」と言い放った。

 犬たちと信頼関係を築きながら、日々のトレーニングを重ね、レースに青春をかける。「もちろん目指すのはトップさ」。昨年のレースでは70組中、17位。スベンは毎年その順位を上げてきた。現在、彼は、ゴールを目指し、選び抜かれた16頭の“賢者たち”と氷雪の荒野を駆けている。

愛用の犬ぞりの前で、生まれて2週間の子犬を抱くスベンさん=米国アラスカ州フェアバンクス郊外で愛用の犬ぞりの前で、生まれて2週間の子犬を抱くスベンさん=米国アラスカ州フェアバンクス郊外で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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