アラスカに暮らす

ソフトクリームが凍る 〜アラスカに暮らす(5)〜

2011年01月31日

アラスカに暮らす(5)

■歯根にしみる冷たさ

 僕の生業は、観光客らをアラスカの自然に案内するネーチャーガイド。時に体験したことのないような寒さの中で仕事をすることもある。あれは2009年の年明けのこと。仕事を終えた僕は、お客さんを車に乗せ、フェアバンクス市内の宿に向かっていた。氷点下50℃という大寒波に見舞われていた街は、真っ白な霧に包まれていた。比重の重い冷たい空気によって、火力発電所や各家庭のすす、車の排ガスなどが地表付近にため込まれることによって起こるアイスフォグ現象である。

 アイスフォグは一般的には氷点下40℃前後になると頻繁に起こる。こうした低温下では、じかに空気に触れる頬などは、ちりちりと鋭い痛みを覚え、まばたきをすると、上まぶたと下まぶたが一瞬くっつくような感じを味わう。だが、すれ違う車の中は、相当暖房を効かしていると見え、半袖にジーンズのお兄さんや、タンクトップ姿のお嬢さんもいて、ダウンジャケットとスノーパンツに身を固めた僕たちは目を丸くしてしまった。

 ところが、いやはやこちらにも物好きなお客さんたちがいて、「せっかくだからソフトクリームを食べてみたい」という。市街地では、道路脇の空き地などに4畳半ほどのスペースを持ったコーヒースタンドが結構あり、ソフトクリームも売っているのだ。

 氷点下50℃の世界でソフトクリームはどうなるのか。ふと、わいた素朴な疑問を解決しようと、僕たちはあるスタンドでソフトクリームを注文した。

 「わあ、もう凍ってきてる!」。極寒の中では、むしろ温かく感じられるのではないかと想像していたその舌触りは、あくまでもひんやりとしていて、夏のそれとなんら変わりがないことに、ある種、ほっとしたのもつかの間、ソフトクリームは見る見るうちに表面から凍り始め、「ハードクリーム」になっていくではないか。

 「このままだとソフトクリームに、くぎが打てたりして」などと冗談めかしながら、歯の根までも凍ってしまいそうなハードクリームを、みんなでかじったのであった。

 

20110117G002002_2_C_VI.jpg  氷点下50℃の中、ソフトクリームを食べる観光客ら=米国アラスカ州フェアバンクスで

 

 

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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